俘虜収容所別(俘虜番号順)名簿の意図
この俘虜名簿は、外務省外交資料館所蔵の『獨逸及墺洪国俘虜名簿』(アルファベット順;以下『俘虜名簿』と略記)を基に、俘虜収容所別(俘虜番号順)に置き換えたものである。ただし、収容所の整理統合前の、当初の収容所振り分けによる名簿である。従って板東、習志野、青野原、似島の収容所収容俘虜は、この資料では必ずしも明瞭とはならない。そのために、「俘虜収容所開閉一覧表」を別途資料で追加した。久留米、福岡、熊本の俘虜については、備考欄で移送先を知る限りにおいて記載した。また、移送年月日も種々の資料から判明する限りにおいて記した。なお俘虜人名の綴りは、ほぼ『俘虜名簿』のまま記載したので、必ずしも正確ではない。将校及び同相当者についてはその階級・役職等を記載した。
この名簿の意図は、各収容所における俘虜の所属部隊を明瞭にさせるところにある。それによって、『俘虜名簿』からは従来必ずしも窺い知ることの出来なかった、青島独軍の部隊編成・陣容等の実態に触れることが出来ると思われる。
所属部隊の略語邦訳(一部)
1) 7.K.V.S.B.(die 7te Kompanie Vte Seebataillon)=第3海兵大隊第7中隊
2) Stab V.S.B.=第3海兵大隊参謀本部
3) Marine Komp.(Marine Kompanie)=海軍砲兵中隊
4) M.A.K.(Matrosen Artillerie Kiautschou)=海軍膠州砲兵隊
5) O.M.D.(das Ostasiatische Marinedetachemant)=海軍東アジア分遣隊
6) “Kais. Elis.”=(巡洋艦)カイゼリン・エリーザベト(皇后エリーザベト)
7) Gouvernement=総督府
8) Schw.Haub.B.(Schwere Haubitze Batterie)=重野戦榴弾砲兵隊
9) M.P.K.V.S.B.(Marine Pionier Kompanie)V.S.B.=第3海兵大隊工兵中隊
10) Fortifikation=築城部
11) Minen Depot=機雷兵站部
12) Artl. Depot=Artillerie Depot砲兵兵站部
13) Tsingtau Werft=青島造船所
14) M.F.B.(Marine Feld-Batterie)=海軍野戦砲兵隊
15) Landsturm=国民軍
16) M.G.K.(Marine Maschinengewehr Kompanie)V.S.B.=第3海兵大隊機関銃隊
17) Res.B.?.S.B.=第3海兵大隊予備榴弾砲隊
18) U.Werftdiv.=第2工機団
19) “Jaguar”=砲艦ヤーグアル
また、俘虜一人一人の収容所移動を明らかにすることもこの名簿の意図するところである。
なお従来筆者は、海軍歩兵第3大隊、海軍東亜分遣隊、海軍膠州派遣歩兵大隊の訳語を用いてきたが、今後はそれぞれ第3海兵大隊、海軍東アジア分遣隊、海軍膠州砲兵大隊の語を使用することとした。将兵の所属部隊名称や階級名にも、再考の余地は多く、今後の課題としたい。また、本名簿作成に当たっては、ハンス=ヨアヒム・シュミット氏、松尾展成岡山大名誉教授及び星昌幸氏からのご教示に負うところがあった。記して感謝申し上げる。