音楽指導の違い

名古屋の事例では、特種技能者の所外労役は産業特に工業方面の俘虜であれば、
まず無条件に許可されていた。一方音楽指導の所外労役に許可されない例があった。

そして名古屋以外の他の収容所も同様の取扱だと思っていたところ、前ドイツ館館

長の田村一郎氏の著書『板東俘虜収容所の全貌』(61頁)をみると、そうでもなく

て所外での音楽指導が公然となされていたことを知った。著者自身に確認したところ、具体的な説明を兼ねて詳しい回答を頂いた。
 この事例から収容所ごとにニュアンスの違う取扱があったことに関心が向いた。名

古屋では、雇用主から軍に申請書を出すところからはじまって、2,3週間後に許

可の回答が届くのが定番の経過だった。帰国が近くなってからは、口頭申請など例

外もあったかと思われる事例もあるが、まずは申請書類を整えて衛戌司令部経由で

陸軍省へ提出するところから手続は始まっていたという認識だった。
板東の場合は、申請書類を省略して所長の許可だけで所外指導に出向いた事例も中

にはあったようである。この状況に興味を抱くのは私くらいかも知れないが、私自

身は大変印象深い事実を知ったと思っている。
板東の場合も正式に衛戌司令部経由で陸軍省に申請書類を出して、音楽指導の是非

の伺いをすればどうだったのか。最初から所長許可の範囲でOKだという認識だっ

たのか。この辺の収容所間の運用の差異について比較検討の余地があるように思う

がどうか。