　ここに訳出したのは、ハンス・コンラート・ローデ氏（Hans-Konrad Rode）を介して入手した以下の文献のうち、ベルリーナー家に関する記事 "Die Familie Berliner"（S.88～100）から、更にチンタオ戦俘虜ズィークフリート・ベルリーナー(Siegfried Berliner [Sigfridと綴られることもある] 丸亀→板東)に関連する部分（S.96～98）のみである。なお、軍隊の名称など、いくつかの不明な点について瀬戸武彦氏から教示をいただきました。感謝です。

　マンフレート（注1）の最初の結婚から5人の子供が生まれ、そのうちアメリカで精神分析学者として活躍したベルンハルト・ベルリーナー博士（注2）の他に、特にズィークフリートとコラ（注3）が有名になった。長男のズィークフリートは1884年2月15日にハノーファーで生まれた。ハノーファー実科ギムナジウムで高校卒業資格試験に合格した後、1902年から1906年までライプツィヒ大学とゲッティンゲン大学で数学、物理学、経済学を学び、21歳でゲッティンゲン大学で博士号を取得した。博士論文のタイトルは「ゆっくりと負荷を変える際の鋳鉄の反応」で、「物理学年報」に掲載された。1年後、高等教員試験に「秀」の成績で合格し、1906年から1907年まで1年志願兵として第1軍団ハノーファー歩兵第74連隊に入隊した。

　伯父エーミール（注4）が彼を1年間アメリカ合衆国で学ばせた後、ズィークフリートは1908年にライプツィヒの公立商業学校と商科大学で講師として働くことになった。5年後29歳のとき、彼は東京帝国大学の経営学教授として招聘され、商学科（注5）を創設した。第一次世界大戦に応召しその後捕虜となったが、その期間を除き、1925年までここで教鞭をとった。その後ライプツィヒで1938年まで、自身も創業者の一人である「ドイツ・ロイド生命保険会社」を経営し、同時にライプツィヒ商科大学の経営学の教授であった。

　アメリカで研究旅行をしながらズィークフリートは、ライプツィヒへ帰ることが政治状況によってもはや不可能であることを悟り、ワシントンのハワード大学の教授の職に就いた。これと平行して2年間、オハイオ州コロンバスの「アメリカ市民保険会社」を経営し、その後1943年に再び、シカゴで自身の保険会社「チャータード・ブローカーズ社」を設立し、1952年に退職するまで社長であった。ドイツ語、イタリア語、英語、日本語で書いた彼の著作物の数は極めて多い。受賞した勲章の類は数多いが、その中に1956年にゲッティンゲン大学から授与された「金の博士号（das Goldene Doktordiplom）」がある。ズィークフリート・ベルリーナーは1910年にハルバーシュタット出身のアンナ・マイアーと結婚していたが、1961年10月16日に子孫を残すことなく、オレゴン州のフォレストグローブで死亡した。彼の遺灰は1961年12月21日にハノーファーのアン・デア・シュトラングリーデ通りのユダヤ人墓地に埋葬された。