ある恋の風景
ある春のひるさがり
ぼくのとなりに
女の死体がひとつころがっていました
それはじめじめしていて
とてもくさかったので
ぼくはその死体に
火をつけました
さいしょにぱちぱちと音がしてから
髪の毛がもうもうと燃えだし
毛穴がくろくうきだしたあと
皮膚はきいろく焼けただれて
ふくれた内臓はぐにゃぐにゃと溶けだしました
その風景はまるで
シャガールの絵のような美しさで
ぼくのこころを
はてしなく色づけてしまったので
ぼくはじぶんの体にも
火をつけずにはいられませんでした
火は体毛をつたって
すぐにぼくをつつみこんでしまい
あめ色になったぼくは
あのひとの赤いくちびるを思っていました
いまもぼくの脳髄に巣くっている
その赤いくちびるは
焼けただれていくぼくの皮膚から立ちのぼるゆげを
こんこんと呼吸して
いまはもう
びらんびらんになってしまったぼくの体を
なまめく大気にげろりと
吐きだしてしまいました
嗚呼、恋とはなんとかなしかろ
ぼくのただれた脳髄は
あなたを思って
まっかにふくれあがります
うまれたての赤ん坊のおしりさながら
まっかにふくれあがります
いまはもう石炭のひとかたまりになってしまった
あなたを思って