業務報告書『丸亀俘虜収容所記事』
 
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 以下は高橋輝和氏の『丸亀ドイツ兵捕虜収容所物語』(えにし書房、2014)よりの孫引き。丸亀収容所が閉鎖された折に、同収容所の将校の一人が「俘虜情報局」に宛てて書いた報告書です。
 
 
1.連邦を異にするに従ひて多少其の性情に差異あり。プロイセン人は一般に傲慢にして人を軽侮するの風あり。他の同国人より嫌悪せらる。
 
2.勤倹の性に富む。
 些末のものと雖も苟(いやし)くもせず(おろしかにしない)。能(よ)く之れを整理して使用す。又本国より送付し来たる靴下の如きは多く手製にして必ず同系同色の糸を添付しあり。煙草の包装の錫紙の如きも之れを集めて溶解し種々の器物を調製せしものあり。
 
3.規則を厳守す。
 一般に示されたる規則は能く之れを履行す。従って規定されたる事項は之れに服従するの義務なると同時に各自の権利なることの固き信念を有するものの如し。
 
4.工芸的技術に発達す。
 工芸上の技術に就きて大正6年3月10日11日の両日、俘虜製作品展覧会開催せしに其の製品の数多く、其の成績の優秀なるを見て、其の一般を窺ふに足る。
 
5.体育に努め能く精励す。
 与えられたる運動時間には悉く運動場に出場し、冱寒(ごかん)(=厳寒)酷暑を意とせず運動す。終了後、冷水浴若しくは冷水摩擦等をなし、後読書、其の他研究に従事し一心に精励するを見る。
 
6.積極的、且つ男性的なり。
 一般に安逸に耽らず、諸事研究心篤く、収容二カ年半なるも悲観自失する者なく、他日の発展を期するものの如し。
 
7.自尊心高し。
 国民の教育、之れを然らしむる所か、一般に自尊心強く、自ら世界の最良人種なることを確信しおるものの如し。
 
8.共同生活は好まず。
 我等が家屋の構造上、習慣(ならい)性となりしも、共同生活を好まず。唯、隔離して各人に一室を占有せんとするの風あり。