　日本収容青島捕虜の中で，解放後に日本に留まった人は誰か．文化交流が人的交流によって支えられるとすれば，これは日独文化交流史の一問題であろう．この問題を検討するための出発点となりうる官庁資料が存在する．資料，「日本領土内居住及旅行等ヲ許可シタル俘虜解放ニ関スル件」であり，防衛庁防衛研究所図書館所蔵の『俘虜ニ関スル書類　自大正三年至九年』(陸軍省/日独戦争/T3-18/51)に，第29号文書として収められている．この資料は，日本での就職が決定した捕虜，および，日本居住を希望する捕虜の氏名を，俘虜番号と軍階級とともに，6俘虜収容所別，士官・下士官・兵士別に記載している．また，この資料は，青島に就職・居住する捕虜，一般送還船出発前に解放される捕虜，自費で日本を離れる捕虜も，併記している．

　本稿は上記資料を次のように処理して，紹介する．対象は日本就職者・日本居住希望者ばかりでなく，資料に記載された全員である(オーストリア軍人2人には*を付けた)．彼らを姓のアルファベット順に配列し，各人について俘虜番号，捕虜の姓と名を記した．配列に際してウムラウト，母音の後のe，貴族のフォンは無視した．姓，名，俘虜番号は外務省外交史料館所蔵の俘虜名簿 1917(『日独戦争ノ際俘虜情報局設置並独国俘虜関係雑纂』[5/2/8/38]，第1巻の冒頭)を基準とした．名の後の[ ]は，俘虜名簿と異なって上記資料に記載された姓，名ないし俘虜番号あるいは関連事項である．資料に記された軍階級は省略した．俘虜名簿と異なって上記資料に記載された姓も，参考のために記載した．

　人名の後の，場合によっては[ ]の後の，( )内に収容所名と原資料分類項目を示した．原資料分類項目は次のように略記した．「日本内地契約成立者」＝日本就職者，「特別事情ヲ有シ日本内地ニ居住希望者」＝日本居住希望者，「青島ニ於ケル就職既定者」＝青島就職者，「特別事情ヲ有シ青島居住希望者」＝青島居住希望者，「一般送還船出発前予メ日本ニテ解放者」＝日本解放者，「単独自費ニテ独逸ヘ帰還スル者」＝自費帰国者である．したがって，略記した日本・青島居住希望者は，略記した日本・青島就職者を含まず，また，略記した日本解放者は，略記した日本就職者・日本居住希望者を含まない．

　日本残留者の合計人数はいくつかの官庁資料に示されている(拙稿，「4人の板東収容青島捕虜」，『岡山大学経済学会雑誌』，36巻1号，2004年6月，第3節(注19)を参照)．しかし，日本残留者の氏名は，私の知るかぎりでは，本資料だけに記録されている．なお，本稿は私の誤解・誤記を多く含むであろう．そられが指摘されることを期待する．